第一回 丹後の地で誕生した「式服」

白、とひと言で表現するにはあまりに多彩な表情を見せる「式服」。なめらかな肌触りと独特の織り模様はいつまでも眺めていたいほどの美しさで、白無垢の格調を一段と高めています。この織り模様は“シボ”と呼ばれ、京都の伝統工芸・丹後ちりめんの特徴的な織り方のひとつ。京都府北部に位置する丹後地方の中でも、京丹後市、宮津市、与謝野町が主な産地です。丹後ちりめんの歴史は古く、奈良時代にはこの地で絹の生産をしていたという記録があり、シボという特徴を持った織物として広まり出したのは亨保5年(1720年)頃。この長い歴史の中でも、「式服」を製造しているのは、与謝野町に機場をいくつも抱える織物会社「蒲重」だけです。

衣桁に掛けた式服

光の加減や花嫁の動きで、色みや風合いが変化する「式服」。金糸であしらわれた神紋は、ゲストの心にも残るはず。挙式する寺社仏閣の神紋をあしらった白無垢で臨む式には、ここでしか味わえない特別感があります。

株式会社蒲重代表 蒲田さん

式服の生みの親である、株式会社蒲重の代表・蒲田さん。「式服の生地には、菊や葵御紋などの神紋を織り柄で表現しています」。

「蒲重」は、丹後の地で半世紀以上続く織物会社。代表の蒲田重夫さんは、伝統を守りつつ、新しい精錬加工を開発するなど、常にその発展を願う職人のひとり。織り柄を考え、機場へ足を運び、伝統工芸を途絶えさせないようにと日々奔走されています。「それでも、一度は廃業を考えていました。そんな時『丹後ちりめんで白無垢を作ってみては』という話をいただいた。これが最後、という気持ちで受けました。白無地という条件で、丹後ちりめんの特徴を活かすのに苦労し、作ったサンプルは40種類以上」と蒲田さん。納得できる生地にたどり着いたのは4ヶ月後のこと。そこに神紋をあしらうことで、日本で唯一の「式服」が誕生しました。

神前式、白無垢のこと。

挙式には宗教や風習によって様々ありますが、大きく分けると教会式・人前式・神前式・仏前式の4種類。

中でも神前式は日本の古式ゆかしいスタイルで、ここ数年和婚が注目される中、改めて人気を集めています。神社で執り行われ、「両家の結びつき」を重視する考えのもと、杯と杯を重ね「家と家の絆を結ぶ」とされる三々九度で永遠の契りを結び、神への捧げ物として、新郎新婦、両家代表が玉串拝礼などを行います。進行や作法は事前に教えてもらえるのでご安心を。

神前式
神前式-三三九度

白無垢は、着物の中でもっとも格式高いとされています。一般的に「汚れがなく、神聖である」「嫁ぎ先の家風に染まる」などの意味が知られていますが、二人の結婚を神様に報告するため、神様に奉仕する服(斎服=白装束)という意味も。寺社仏閣での結婚式でしか着られない着物なので、日本人なら、その特別感はぜひ経験してみたいですね。

白無垢の生地
白無垢