白、とひと言で表現するにはあまりに多彩な表情を見せる「式服」。なめらかな肌触りと独特の織り模様はいつまでも眺めていたいほどの美しさで、白無垢の格調を一段と高めています。この織り模様は“シボ”と呼ばれ、京都の伝統工芸・丹後ちりめんの特徴的な織り方のひとつ。京都府北部に位置する丹後地方の中でも、京丹後市、宮津市、与謝野町が主な産地です。丹後ちりめんの歴史は古く、奈良時代にはこの地で絹の生産をしていたという記録があり、シボという特徴を持った織物として広まり出したのは亨保5年(1720年)頃。この長い歴史の中でも、「式服」を製造しているのは、与謝野町に機場をいくつも抱える織物会社「蒲重」だけです。
「蒲重」は、丹後の地で半世紀以上続く織物会社。代表の蒲田重夫さんは、伝統を守りつつ、新しい精錬加工を開発するなど、常にその発展を願う職人のひとり。織り柄を考え、機場へ足を運び、伝統工芸を途絶えさせないようにと日々奔走されています。「それでも、一度は廃業を考えていました。そんな時『丹後ちりめんで白無垢を作ってみては』という話をいただいた。これが最後、という気持ちで受けました。白無地という条件で、丹後ちりめんの特徴を活かすのに苦労し、作ったサンプルは40種類以上」と蒲田さん。納得できる生地にたどり着いたのは4ヶ月後のこと。そこに神紋をあしらうことで、日本で唯一の「式服」が誕生しました。