第二回 「式服」の素材、丹後ちりめん

きめ細かく、なめらかな肌触り。花嫁の何気ない所作でさり気なく表情を変え、気品を醸し出す式服ですが、それは“丹後ちりめん”で作られるからこその魅力です。丹後ちりめんは、選び抜かれた高級絹糸100%で織り上げられる、贅沢な高級絹織物。1メートルあたり約3,000回前後もの強い撚り(より)をかけた緯糸(よこいと)と、撚りのない経糸(たていと)を、職人が交互に織っていきます。織り上げた生地を精錬することで糸が収縮し、緯糸の撚りが戻って生地全体に細かい凹凸のような立体感のある織り模様が生まれます。これが前回でもご紹介した“シボ”。式服を手がける「蒲重」は、この精錬作業の工程で実用新案を取得しています。

精錬前と精錬後の生地

織る前にわずか3割程度糸を練る工程を経て精錬した蒲重の丹後ちりめん。余分にコストがかかるため、この工程を取り入れているところはわずかだそう。「手間はかかるけれど品質を重視するとはずせない」と蒲田さん。光を受けて浮き上がる繊細なシボが目を引く。

白無垢 反物

神前での新郎花嫁の姿に想いを馳せながら、蒲田さんがデザインした図柄は数百を超える。どれも古典模様を組み合わせた、気品漂うものばかり。手前は、神社の神紋をあしらった新郎用式服の反物。

「わが社が扱う絹糸は、その中でも特別に上質なものだけ」と胸を張るのは蒲重の蒲田さん。シルクとも呼ばれる絹糸ですが、これは桑の葉を食べて成長した蚕(かいこ)が、マユを作るために紡ぎ出す糸のこと。生きものであるだけにその状態は様々で、品質によって細かくランク付けされています。蒲重が扱うのは最も高い品質を指す6Aランク。仕入先の絹糸業者は、ヨーロッパの名だたるグランドメゾンも熱心にラブコールを送る、世界的にも信頼のおける業者です。「この絹糸だからこそ、気品溢れる仕上がりになります。古典柄である鶴や花などを組み合わせ、花嫁さんの神聖さを質感とデザインで強調しているんですよ」。

白無垢こそ、素材にこだわりたい。

白無垢、と聞くとイメージするのは「白一色の花嫁衣裳」。ですが、白無垢にも様々な種類があり、まさに多彩な衣裳のひとつです。織り模様や赤がポイントに入ったもの、金糸などが織り込まれているものなどありますが、どんな織り方、模様、デザインを選ぶにしても大切にして欲しいのが、素材です。

白無垢
白無垢

素材としては大きく正絹(しょうけん)、交織、化繊の3種類に分けられます。正絹は絹糸のみ、交織は絹糸と化繊で織られたもので、パッと見た印象はどれも変わらないのではと思うはず。ですが、光を受けた時の優しい輝きや、こっくりと深みのある色味、写真にも品良く映る織り模様は正絹だからこそ。また、正絹はしっかりと締まるので、着崩れしにくいというメリットも。
衣裳を白無垢に決めたら、次は肌触りや質感を比べて、素材重視で選んでみてください。

正絹の白無垢
正絹の白無垢